鹿のいほり

漫画の感想など

「コオリオニ」 梶本レイカ 感想 すごいの一言しかない

すごい漫画に出会ってしまった...

読後は体に力が入らずしばし放心状態…

サスペンスbl漫画と謳われていますがそんなものでは片付かず、最後の最後まで油断できない重厚なストーリーと生々しい人間描写で、読後1週間は「コオリオニ」の世界から抜け出せないようなものすごい作品でした。

 

 

 以下ネタバレ含みます

コオリオニ(上) (BABYコミックス)

コオリオニ(上) (BABYコミックス)

 

 

 “ヤバい男達が組んだ"

1990年代、北海道――…全国を震撼させる警察の不祥事が幕を開ける。

1990年代、警察庁は相次ぐ拳銃事件の対策として全国的な銃器摘発キャンペーンを始める。全国の警察は厳しいノルマを設けられ、それをこなす為に警察がヤクザと手を組むという点数稼ぎのデキレースが横行した。そんな中にエースと呼ばれる男・鬼戸圭輔(きど けいすけ)はいた。彼は何人もの犯罪者を情報提供者として飼い、北海道警察の中で一際多くの拳銃を"摘発"していった。そして彼は自分の運命である誠凛会(せいりんかい)の幹部・八敷 翔(やしき しょう)に出逢ってしまう。より大きい山を当てるために鬼戸は柏組(かしわぐみ)の武器庫に目を付け、八敷を潜入捜査に誘う。八敷は薬の密輸入を目溢しすることを条件に鬼戸と組む。二人は甘美な成功を期待して潜入捜査に乗り込むが――。

 

帯にもある「ヤバい男達」というのが刑事の鬼戸(攻)とヤクザの八敷(受)。

 冒頭から2人が纏う「ヤバさ」をじわじわ感じながら、薬に暴力に「エンコ詰め」「耳切り落とし」といった血生臭さの漂うストーリーが展開されます。

鬼戸が銃器摘発のノルマのために情報提供を求めて八敷に近づきヤクザとドンパチする流れですが、かなり濃密で読ませる内容になっているので正直こういうハードな局面を乗り越えてメイン2人が結ばれてハッピーエンド、という話でも十分面白い。

しかし本当の「コオリオニ」はここからだった...

上巻の半分を読み進めた辺りで八敷、鬼戸そしてもうひとり佐伯という3人の「フツウじゃない」男がそれぞれクローズアップされ、それまで見えていた人間像がバラバラと崩れ落ちます。

 

八敷は幼少期から中学まで自分の父親に犯され、ヤクザになってからも小学生の頃から慕ってきた佐伯という兄貴分の尻拭いで何本も足の指を犠牲にしてきた「苦労人」「かわいそうなお姫様」という印象だったのが、佐伯視点の話が描かれることで全くのお門違いだったということが判明します。

実はその「かわいそうな状況」こそが八敷の望んでいたもので、ヤクザとして器用に立ち回る八敷を見てどんどん自分の存在価値を見失っていく佐伯に対し、八敷は佐伯を庇いかわいそうな役を演じることで存在価値や優越感を一挙に得ていた。

哀れまれ、リンチされることを「存在価値」だとする八敷の満たされたい欲求、そして佐伯がそういう自分に気づいていた事を知り、焦りとともに引き金を引いてしまう八敷には目を背けたくなるような人間らしさをひしひしと感じます。

八敷は佐伯を「どうしようもないクズで神」佐伯は八敷を「神の子ドクズ」と称しますが、周囲と同調できず居場所のなかった彼らにとって2人の出会いは互いのクズさを理解した上で神に巡り会えたような気分だったんだろう...

 

そして鬼戸。こちらは強そうな雄み溢れる見た目とは裏腹に下巻で鬼戸圭輔という男の脆さ、根底にあるどうしようもない寂しさが浮き彫りになっていきます。

更に苦しいのは今まで自分をフツウじゃないと自覚しないよう、また悟られないよう異常なまでに他人から「言われた通りに」することを徹底してきたこと。

それなのに、自分が心の奥底で負け組、社会不適合者だとバカにし利用してきたエスに「あんたは俺と同じだ」と言われ、激昂し、そして殺してしまう。

ここで読み手も鬼戸が八敷や佐伯と何ら変わらない「お気の毒様」だったことに気づかされる。

 

八敷は佐伯という神がこの世から消えた今、やっと鬼戸という同士に出会い自分を殺してくれるのではないかと期待して近づきますが、似た者同士は磁石のように引かれ合ってからも不安定で、おぼつかない。

このカップルがなかなか幸せになろうと足並みを揃えないのは自分を受け入れない社会で居場所を作ることへの不安とか、裏切られるかも居なくなるかもという不信感とか、そういう幸せになることへの一切の怖れがこびりついているせいかなと想像して胸が苦しくなります。

明るい終幕が全くイメージできずに話が進み、最終的に2人に救いはあるのか?どこにも居場所のない彼らの止まり木は見つかるのか?と聞かれたらはっきりと肯定も否定もできませんが、個人的には作者の梶本先生が全てを描ききってくれたお陰でストンと腑に落ちる幕引きでした。

また番外編が衝撃の内容で、これを読むとラストも色んな解釈ができるのかなと思います。本当に最後まで気が抜けない。

 

ここまでのあらすじだとただただ暗くて重苦しい話のように思えるかもしれませんが、刑事としてヤクザとして生きる鬼戸と八敷はかなりいきいきしており、2人でよろしくやってるところなんかは更にノリノリで楽しいです。

ヤクザがわらわら登場してそういう用語も満載なのでヤクザ好きはもちろん、受けがこれでもかというくらい散々いたぶられるのでそういうのがツボな人にはどストライクだと思います。

 

 

コオリオニは以前から気になっていたんですが、電子化されていないので試し読みができず。なので色んな方々の熱烈なレビューを頼りに前情報一切なしで読んだ結果、期待を裏切らないどころかblの常識を覆されました。

今はただ、一体どこ取材に行けばこんな漫画が描けるのか、梶本レイカ先生の思考回路はどうなっているのか...それだけが非常に気になります。

バンチで連載中の「悪魔を憐れむ歌」もWebで読んできましたがこちらもまた一癖も二癖もある作品。コミックス発売が楽しみ。

mominokirin.hatenablog.com

コオリオニ(下) (BABYコミックス)

コオリオニ(下) (BABYコミックス)