鹿のいほり

漫画の感想など

米代恭「あげくの果てのカノン」 1・2巻 感想

不倫もSFも普段自分から手を出さないジャンルなのに「SF×不倫」と書かれた帯を見たら無性に内容が気になり…。

読みだすとすぐに作中の世界観にどっぷりハマり、「恋」することの狂気をキャラクターひとりひとりが訴えかけてくるような深い作品でした。

 

 

以下ネタバレ含みます。

あげくの果てのカノン(1) (ビッグコミックス)

あげくの果てのカノン(1) (ビッグコミックス)

 

 

ゼリー(エイリアン)襲来によって 都市機能を失った東京・永田町。
高月かのん(23歳)は、高校時代から8年間、
一方的に大好きな境先輩への片想いをこじらせ、
崇拝の域に達している。
先輩以外を好きになったことがない高月にとって、
先輩との時間は、初めてのことだらけ。
触ること、見つめること、そして…
でも、いけない。
この「恋」を進めると、「罰」を受ける。
だって、先輩は他の人のもので、この世界のヒーローだから。

 

 主人公のかのんは高校の先輩の境宗介を好きすぎるあまり盗撮写真をスクラップしたり会えた日には声を録音して、それを家で一人で再生しては涙を滲ませるようなメンヘラ女子。

境先輩を崇拝しすぎて完全に一線を越えているかのんの行動や思考が恥ずかしいくらいリアルに描かれていて、彼女のストーカー行為に「引く」というよりは「共感」の方が大きい。

人を好きになると誰しも傍から見たら危ない行動をとってたりするんだろうなと。

 

かのんのいる世界では「ゼリー」と呼ばれるエイリアンが襲来し、これと戦闘するのが境先輩が所属する特殊部隊SLC。この戦闘で負傷しても「修繕」をすると腕がもげようが頭の一部が吹き飛ぼうが綺麗に元通りになるという仕組みがあり、付随するリスクとして本人の人格そのものが少しずつ変化していきます。

肉嫌いだったはずの境先輩が目の前で平然とハンバーガーを貪り、あったはずのホクロがなくなり、性格も以前と比べて妙に強引で積極的になっている...

かのんにとって自分の全てでいつでも自分の理想で有り続けてきた先輩が修繕の度にどんどん知らない人になっていくのは言い知れぬ怖さがあります。

 

宗介の妻である初穂はかのんとの逢引きを知って黙っているような女ではなく、美人で頭も良く宗介と同じSLCの研究者として活躍するいわゆる「デキる女」。

かのんから着信がきたスマホをコーヒーにミルクを入れるがごとく味噌汁にin...するようなかなりの冷酷さなのに、過去回想では今のかのんのように宗介の言葉に一喜一憂する姿が描かれる。

初穂は宗介に釣り合う女になるために「変わって」きたのに、彼は変わる前の自分のような女を好きだと言い、自身は変化する宗介を吐き気がするほど許せない。

かのんは高校時代からずっと変わらない先輩を追い続け、宗介はかのんの自分に対する変わらない好意に「変わっていない自分」を見つけて安心し、初穂は宗介の変化を止めようとしている。

人も感情もずっと同じであり続けることなんてできないのに、それでも不変を追い求める彼らの行き着く先はどこなんだろう...

 

この作品が不倫漫画なのにそんなにドロドロ重たくないのはSF設定が絶妙にストーリーに練りこまれているのは勿論、かのんが初穂から先輩を略奪したいとか関係を壊したいとかそういう感情が弱く、「ただただ先輩がどうしようもなく好き」という純粋な気持ちが強く押し出されているからだと思います。

 

かのんビジョンで読んでいるせいか堺先輩は血だらけでも顔に大きな傷跡が縦断していても素敵で、この顔の傷をかのんが指でゆっくり辿るシーンは思わず息を飲みました。

「私は今、神様に触れている」と幸せを噛み締めるかのんがこれ以上変わっていく先輩に対してどうなってしまうのか...

変化していく様をこれだけ「怖い」と感じる漫画は初めてです。

 

「SF×不倫」、期待を良い意味で裏切られた異色の面白さでした。

 

↓3巻感想

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