小林有吾『アオアシ』12巻 感想

色んなキャラの鬱屈が晴れた武蔵野戦が終わり、12巻。今回試合描写はなくAチームでの練習が中心になりますが、全話余すところなく最高に面白かったです。

練習描写だけでのめり込んでしまう話の緻密さとリアルさ、それを引き立てるAチームのキャラクター達が全員のサッカー人生を描いたスピンオフ作品が読みたくなるほど魅力的。

そして同日発売のアオアシ × footballista Special Magazineを読み、この作品は本当に膨大なものが積み重なって完成されているのだなあ…とただただ感動でした。

 

以下ネタバレを含みます。

アオアシ(12) (ビッグコミックス)
 

念願のAチーム昇格を果たした冨樫黒田大友アシトの4人がまず大苦戦するのが「オシム式パス回し」。

この一風変わったパス練習が読んでいるだけで頭が痛くなるくらい相当な思考力を要するもので(物凄く丁寧な解説があります)、しかもそれをとんでもないスピードの中でやらねばならない。
必死に踠きながらもここでまたアシトの「気づき」から「成長」のステップ、つまり覚醒が。今回はいつも以上に手探り状態で成功率もまちまちなのでプチ覚醒といったところでしょうか。それでも震えるほど感動してしまうのは「作中最大の伏線回収があったから」です。

遡ること1巻、「考える葦」の花の言葉。

考えて、考えて考えて―...

するとな、「いろんなことがいずれ考えなくてもできるようになる。そうしたら、ようやくそれが自分のものになる」って。

この言葉とアシトが今まさに体感している現実が結びついて身体に染み込んでいく感覚、そしてAの選手の判断の早さから「考えてるけど考えてない」という答えを導き出し、それは思考を重ねた先にあるものだということを肌で感じ理解する流れが素晴らしすぎて、ページを一旦閉じて呼吸を整えながら「嘘だろ…」しか言葉が出てこなかった。

これほどドラマチックに回想を挟んだ後に"その衝動を信じろ!!"はずるい……参りました。

 

 

Aのバケモノ集団も阿久津や栗林や義経らのちょくちょく登場していたキャラに加え、「俺はサッカーが上手い」という自信とプライドに満ちたストイックな選手達の人格がアシトと絡むうちに徐々に見えてきます。
特にMFの桐木曜一。

やたらと髪がサラサラした、阿久津に負けず劣らず人相の悪い、いかにも取っつきにくそうな先輩ですが、今人気投票をしたならば確実に圏外から数十位は順位を上げてくることでしょう。

オシム式パス回しでアシトの"反応"がどうやらマグレではないと察し、練習後に疲弊しきってしゃがみ込むアシトの側を一度は通り過ぎるものの、足を止め振り返り「変わった名前。」と言い残す、この一連の流れに彼なりの最上級の親しみや容認が込められている気がして、最高の瞬間が詰まった2ページを何度も繰り返し読んでしまう…。

「アシト。」と呼ばれるシーンが吹き出しのみになっていて、まさかあの桐木が…?というワクワク感が喜びを増幅させるんですよね。演出も素晴らしい。

こういう一番隙のない攻略が難航しそうなキャラがアシトを少しずつ認めていく様がたまらなく嬉しくて、これからますますAチームにとって不可欠な存在になるのだろうなあと想像すると本当に楽しみで仕方がないです。

 

 

そして衝撃だったのは日の丸食堂で明らかになった栗林の"怖さ"ですね…
気さくでみんなに好かれる"良い人"なのに会話してみると分かる独特なテンポ、質問に質問で返したり軽やかに無視したり、目の前で話しているのにどこか存在が掴めない異様さを感じます。

その理由は彼が「常に自分をフィールドに置き思考を巡らせているために、それを言葉にするのが追いつかないから」というもので、飛び級でU20代表、しかも弱冠16歳にしてプロの試合に出ている「天才」の人間像を良い意味で裏切られました。

栗林が遊馬のつまらない質問に対して静かに怒りを見せるシーン、目が冷たいのに口元は笑っているのが強烈で、これはひょっとしたら阿久津より厄介なのでは…。

 

エスペリオンにU18代表は4人いて、3年は義経と山田、2年は桐木と高杉が選出されてますが、阿久津は"候補"止まりなんですよね。
ポジション上の都合もあるでしょうが、2年で唯一セレクション合格の阿久津も相当な努力をして昇格生たちに食らいついてきたんだろうなと思うとすごく応援したくなってしまった。栗林への嫉妬で狂いそうな彼も人間らしくてまた良し。


意外にもラブコメも結構ガッツリあって、雨空の下でドキドキし合ってる花とアシトがとても可愛いかったです。こんなの青春以外の何物でもない。

2人ともこのタイミングで?というところで感情のままに行動するので色んな意味でハラハラしっぱなしでした。恋敵(?)のお嬢は遊馬や冨樫と話す場面が目立ちますが今後どう絡んでくるのか、あとは花に献立作成を頼んでいる栗林がどんな役回りになるのかという感じですね。

 

footballistaでも言及されていましたが、アオアシは主人公アシトがサッカーを通じて成長していく中で、時おり甘酸っぱい恋愛模様や人間ドラマがあり…という王道要素を盛り込みつつ、舞台はJユース、そして主人公は"考えるサイドバック"という革新的要素も目立つ作品。

これだけ良いとこ取りなのにも関わらず、その全てをこれだけ丁寧に面白く仕上げてしまう、小林先生の手腕恐るべしです。

 

13巻はアシトのベンチ入りが決まった柏大高戦。
控えではあるけれどアシトと栗林の名前が同じボードに書かれているだけで、ああ、ここまで来たんだなあ…と感慨深いです。
ついに試合で一緒に戦える日が来るのだろうか…

 

次巻は5月末発売だそうです。

アオアシ × footballista Special Magazine (月刊フットボリスタ 2018年4月号増刊)

アオアシ × footballista Special Magazine (月刊フットボリスタ 2018年4月号増刊)