小林有吾『アオアシ』13巻 一番と最高の二番手

 

えー...もう、アオアシ面白すぎる...

個人的に「これ以上面白くできまい」と震えながら読んだ11巻を軽々と超えてきました。

表紙が内容を物語ってますが、13巻はこの”3人”の話です。

 

以下感想。ネタバレを含みます。

アオアシ(13) (ビッグコミックス)
 

 


「毎週全国大会」のプレミアリーグ、平さんの負傷によってアシトが交代で出場することに。
今まで通り"アシトなら何とかしてくれるはず"という期待があったので、紅白戦以来の「試合に参加できない」絶望感は読んでいて辛いものがありました。
DFの動きは分からないし、簡単に抜かれるし、誰の目から見ても足でまといで柏商にもエスペリオン唯一の"穴"として認識されてしまう。

完全にその穴につけ込まれる中、動くのが福田。展開的に言えば監督に怒られるのはどう見てもアシトだろうなと思うところを、怒りを向けられたのは阿久津だったという13巻の「まさか」の一つですね。
本当にミスリードが上手いんだよなあ…この「まさか」が1巻の中で何度も味わえるのがアオアシの魅力だと思います。

 

福田に「アシトにコーチングをしていない」ことを指摘された阿久津は、渋々アシトに守備の動きを指示するように。
「阿久津がアシトにサッカーを教える」展開はきっとまだまだ先のことだろうと予想していたので、このシーンはある種夢が叶ったようで胸が熱くなりました。
アシトも「形を意識して動く」という守備の重要なポイントが掴めたし、これだけでも柏商戦は素晴らしい収穫があったなあと充足感に浸ったところで…


"神童"、栗林参戦。


ここからは当てはまる言葉が「感動」くらいしか思い浮かばないのが悔しい。

栗林と、阿久津と、アシトのゴールに繋がるドラマチックな連携は、興奮と感動が入り混じってうるっときてしまいます。

 

技術もセンスも別次元の栗林のプレーは描かれるのを待ち望んでいたので当然嬉しかったのですが、同時にショックというか、寂しさを感じたのが試合中に吐露される彼の本音の数々。


同じチームの選手達に対し心中で呟かれる言葉の一つ一つから、ユース最高峰と呼ばれるエスペリオン一軍の面々にすら物足りなさを感じていたこと、ずば抜けた才能故にいつもどこか自分を抑えつけてプレーしていたことが判明します。

 

そんな栗林の"我慢"を感じ取ったアシトは相手の立場になって「考えて」、カウンターの起点になり、栗林がロングパスを受けてゴールを狙う。
だが、一枚残っていたDFを思うようにかわせない。

 

「もう一人...もう一人いねえかな...俺の、イメージ通りに動いてくれたヤツが。」

 

「まあ...さすがに欲張りか。」

 

半ば諦めながら振り返るとそこには

 

 

「栗―――!!!」

 

と叫びながら走ってくる阿久津渚の姿が...

 

最高だ...こんなの見せられたら阿久津が大好きになってしまう。

このシーンは本当に色んな思いが詰まっていて胸がいっぱいなんですが、まず阿久津の「栗」という呼び方にグッときました。


4巻の中で2人で練習場を後にする描写があって、そのときに阿久津は「栗」と呼んでいる。 

でもそれ以降はずっと「栗林」で 、ほかの選手達も同じだった。

そこにきて今回のこれ以上ないタイミングで復活。
狙ったとしか思えないんだよなあ...。あれから長らく封印されてきたのはこの時のためだったのかと、そんな気さえしました。


柏大の10番が栗林投入後「諦めるなお前ら!」と声をかけるのを見て栗林は嬉しそうにしていますが、阿久津と仲良さげなのはこういう理由もあるのかなと思います。
天才と恐れられ遠巻きに見られるのに慣れてしまった自分に食ってかかってくる、屈強な精神を持つ阿久津。

物足りなさを感じていたユースの中で、栗林は阿久津が入団してきて救われた部分もあったのかもしれないなあと。

 

そして走る阿久津を後方から追いかける桐木や高杉の姿を見ると、どうしても6巻で平さんが言っていた「このチームで最高の二番手を」が頭を過ぎりました。

ジュニア時代、初めて見る栗林に圧倒された今の昇格生たちが目指したのは二番手で、この時点で彼らは「一番」になることを諦めてしまっている。

 

それと対比するように描かれるのが阿久津で、12巻でトップチームから戻って来た栗林と福田の"プロ以上"を見据えた会話に

「今の時点では数段階も上にいる...栗林...!!...だが、ここからだ!!」

「俺はお前の二番手に甘んじる気なんぞねえ...必ず抜く...必ずだ!!!」

と自分の激しい感情を隠すどころか周りに宣言までしている。


このシーンを初めて読んだとき、阿久津はやっぱり強烈なキャラだなあ…くらいの感想しか持ちませんでしたが、実はジュニア時代から栗林の才能を目の当たりにしてきた昇格生と、高校で初めて栗林に出会ったセレクション合格の阿久津、両者の差異がはっきり表れていたのだなと思いました。
昇格生は「栗林には敵わない」と端から決めつけ二番手になる選択をしてきたけれど、阿久津は「一番にこだわり続ける人」なんですよね。

アシトもまさに同じタイプなので、こうして阿久津とともに栗林の意思を汲み取って連携できたのかもしれません。

 

昇格生とそれ以外の意識の差は9巻の過去編で描かれましたが、化け物の巣窟と表現されるAチームでも「ユースはメンタルが弱い」というテーマに切り込んでいくのか気になるところです。

 

 

...と、こんな調子で色々と考えを巡らせてしまう、本当にドラマチックなゴールでした。

たった数ページなのに、ボールをつなぐ3人各々の"思い"が透けて見えるんですよね。

だから主人公だけじゃなく、作中最大のヒールにも、神童と呼ばれる天才にも、それぞれに感情移入できてしまう。

特に栗林の「欲張りか。」という何ともやりきれない台詞の直後に走ってくる阿久津には「負けてたまるか」みたいな強い意思が伝わってきて、感極まりました。

 

 

Aチーム編もどんどん面白くなってるなあ...。

キャラが掘り下げられるごとに魅力が増していくので、もっと先輩たちの内側を覗いてみたいです。

 

次巻はアシトへの嫉妬が滲む冨樫がメインになりそうですね。

橘の時と違ってプライドも邪魔してくるのでものすごい分厚い殻を破ることになりそうですが...お嬢がどう絡んでくるかも楽しみ。

 

14巻は8月末ごろ発売だそうです。